海外から届くデータは、まず東京に入るのでしょうか。ユイは、大きな会社が集まる街を思い浮かべていました。
マコト
海底ケーブルって、日本のどこに上がってると思う?地図で言うと
ユイ
東京……ですか?大きな会社もデータセンターも、そのあたりにありそうで
マコトはホワイトボードの日本地図に、丸を2つ描きました。どちらも東京ではなく、太平洋へ突き出た半島の先です。なぜそこなのか。技術の話に見えて、半分は地理の話です。
日本のどこに上がる?陸揚げ地の一覧
日本の国際海底ケーブルは、主に千葉県南房総市(房総半島)と三重県志摩市(志摩半島)の2か所に集中して上がります。総務省の検討会による整理です(2026年7月の報告書)。日本の国際通信の約99%を運ぶ大動脈が、2つの半島の海岸に集まっています。
公式発表で確かめられた範囲の一覧です。
| 陸揚げ地 | 上がるケーブルの例→つながる先 |
|---|---|
| 千葉県南房総市(房総半島) | FASTER→米国/SJC2→シンガポールなどアジア/E2A→台湾・韓国・米国 |
| 三重県志摩市(志摩半島) | FASTER→米国/SJC2→シンガポールなどアジア |
| 千葉県と三重県※ | JUNO→米国カリフォルニア州 |
| 三重県と茨城県※ | Topaz→カナダ |
| 北海道苫小牧市(計画) | E2Aの新しい拠点。北米向け |
| 福岡県糸島市(計画) | E2Aの新しい拠点。東アジア向け |
※ 発表に市町村名の記載なし。FASTERは2016年に運用開始。ほかは建設発表時の資料です。
南房総市にはKDDIの千倉第二海底線中継所とソフトバンクの丸山国際中継所が、志摩市にはKDDIの南志摩海底線中継所があります。呼び名は違っても、どれも陸揚げ局です。
日本に上がる国際海底ケーブルは、2023年で22本。運用開始の予定を含めると、2025年に25本です(総務省の資料)。主な行き先は米国とシンガポールで、SJC2は途中で韓国、中国本土、台湾、香港、ベトナム、カンボジア、タイへ枝分かれします。
1本の海底ケーブルで敷ける長さは、最大で約1.2〜1.3万km。その制約と位置から、日本は北米とアジアを結ぶ線の中継地になっています(総務省の資料)。
日本には各地に海岸があります。それでも表の上4行は、千葉・三重・茨城と本州の太平洋側に集まっています。海岸なら、どこでも同じというわけではなさそうです。
TERM PRIMER
日本の海底ケーブル|この記事に出てくる言葉
なぜ房総と志摩に集まるのか
総務省の報告書は、理由を3つ挙げています。
- 主な行き先の米国とシンガポールまで、距離が短い
- データを多く使う東京・大阪に近い
- 陸の通信網へつなぎやすい
房総半島は東京に、志摩半島は大阪に近く、どちらも太平洋へ突き出ています。海の線は長いほど費用がかさむので、行き先にも大都市にも近い岸が選ばれてきました。
近さが強みなら、いっそ東京に上げればよさそうです。そうしない訳は、地図と数字から読み取れます。
なぜ東京ではなく、半島の先に上がるのか
東京は、太平洋から見ると東京湾のいちばん奥です。海を渡ってきた線が先に出会う陸は、房総半島の先。そこで陸へ上げ、残りを陸の通信網で運べば、海の中の距離は短くて済みます。
もう一つは、線が傷つく原因です。報告書が引く国際団体の調査では、漁業(底引き網など)が40.8%、船の錨が15.8%。合わせて半分を超えます。陸揚げ地のまわりの浅い海は、とくに危ない区間です。湾の奥まで海の中を引けば、その区間が長くなります。
上げる海岸は、こんな条件で選ばれます。
- 波や海底の地形が、線の引き込みに向いているか
- 船の行き来や漁業と、折り合いがつくか
- 陸側で、国内の通信網へつなげられるか
- 電源や設備を置く場所があるか
ユイは「思ったより地味な条件なんですね」と言いました。最先端の通信が通る場所を、波の当たり方と漁の網で決めている。その落差が面白いところです。
海岸を選んだあと、船からどうやって線を引き込み、浅い海ではどう守るのでしょうか。海底ケーブルを敷く7つの工程を図で追うと、地図の線が実際の工事につながります。
ところが、この「2つの半島に集まる」形そのものが、いまは弱点に数えられています。
なぜ北海道と九州に新しく作るのか
陸揚げ局は、日本という家の玄関です。その玄関が2つの半島に固まっています。総務省の報告書は、南海トラフ地震などで房総と志摩の陸揚げ局が被災するおそれを挙げ、ほかの場所にも拠点が必要だとしました。2011年の東日本大震災では、日本に上がる国際海底ケーブルが複数傷ついています。
2025年7月、ソフトバンクは北海道苫小牧市と福岡県糸島市に陸揚げ拠点の新設を進めると発表しました。国の補助事業に採択されています。苫小牧は北米との通信に、糸島は東アジアとの接続に向き、どちらも今の拠点から十分に離れています。
| 分け方 | 期待できること |
|---|---|
| 同じ線を離れた2か所へ上げる(FASTERなど) | 片方の岸で障害が起きても、もう片方から通信を続けやすい |
| 離れた地方にも拠点を作る | 地震や台風の影響が同時に及びにくい |
| 複数のケーブルを別ルートで通す | 1本切れても、残りの線に余裕があれば別の道へ回せる |
別の道で通信を続ける話と、切れた線を直す話は別です。海の底のどこが切れたかを探し、線を引き上げてつなぎ直す流れは、海底ケーブルの修理方法と日数で確かめられます。
ユイ
玄関が離れているほど安心……でも、離れすぎると遠回りになりませんか
マコト
いいところに気づいたね。安全と近さは、いつも少しだけ引っぱり合ってる
都市から遠い玄関は、そのぶん道が長くなります。だから替えるのではなく、近い玄関に遠い玄関を足します。その玄関を通った通信には、手元まで、まだ4つの区間が残っています。
陸揚げ局とは?上がった線が国内へ届く流れ
陸揚げ局(りくあげきょく。陸揚局とも書きます)は、海底ケーブルが陸の通信網につながる施設です。ランディングステーションとも呼びます。中にあるのは、通信のための伝送装置、線の監視設備、海の中の線へ電気を送る給電装置です。
建物は海岸線に近い所に点在し、浸水のおそれを抱えています(総務省の報告書)。KDDIが2014年に南房総市に開いた千倉第二海底線中継所は、津波を避けて海抜約28mの高台にあります。震度7に耐え、電気は2系統から受け、自家発電機も備えています(KDDIの発表)。
手元までの順番です。
- 海底ケーブルが海岸沿いの陸揚げ局に上がる
- 陸揚げ局の設備で、陸上の通信網へつながる
- 国内の大きなネットワークを通る
- 都市部のデータセンターやサーバーに届く
- 利用者の回線を通って、手元の端末に届く
玄関に荷物を積まないのと同じで、陸揚げ局にWebサイトのデータは置かれていません。置き場所はデータセンターで、サーバーはどこにある?で確認できます。線の中を光がどう進むかは、海底ケーブルの仕組みに分けました。
ただし、家のようにいつも同じ玄関を通るわけではありません。どの陸揚げ局を通るかも、通信の速さも、相手の場所と通信会社が選ぶ経路で変わります。海外のサーバーから手元まで、データはどこを通る?では、陸揚げ局の前後を含めた道のりを見渡せます。
地図で確認する3つの視点ワーク
地図アプリで、南房総市か志摩市の海岸を開いてみてください。見る点は3つです。
- 海の向き — どの方向の海に面しているか。海の先に何があるか
- 海岸の形 — 砂浜か、崖か。線を引き込めそうな地形か
- 内陸とのつながり — そこから都市へ向かう道や町並みがあるか
続けて、苫小牧市と糸島市も同じ3点で見てください。面している海が変わると、つながる相手も北米から東アジアへ変わります。
ケーブルの線そのものを地図で見たいときは、TeleGeography社のSubmarine Cable Map(英語)で、世界の海底ケーブルと陸揚げ地を拡大して見られます。総務省の資料の地図も、これをもとに作られています。
ミニクイズで陸揚げ局を確かめる
Q1. 海底ケーブルは日本のどこに上がりますか?
A. 主に千葉県南房総市(房総半島)と三重県志摩市(志摩半島)です。北海道苫小牧市と福岡県糸島市にも、新しい陸揚げ拠点の計画があります。
Q2. なぜ房総と志摩に集まっているのですか?
A. 主な行き先の米国とシンガポールまで距離が短く、東京・大阪に近く、陸の通信網へつなぎやすいからです。
Q3. 陸揚げ局とは何ですか?
A. 海底ケーブルが陸の通信網につながる施設です。データを置く場所ではなく、データがあるのはデータセンターです。
海から陸へ、次に進む道
ホワイトボードの地図には、半島の先の2つの丸に、北と西の丸が加わりました。ユイはノートに「玄関は複数」と書きました。東京だと思っていた場所は、地図の上でずいぶん奥にありました。
いまなら「日本のどこに上がるの?」と聞かれても、南房総と志摩、と地名で答えられます。次は、その玄関が使えなくなった日の話です。地震で線が切れたら日本のネットはどうなるか。海底ケーブルが切れたらどうなる?で確かめられます。
入口の情景は物語の第34話で、海底ケーブルそのものの役割は海底ケーブルとはで読めます。
この記事について
LAB WHITEBOARD
日本の海底ケーブルを一文で説明してみよう
「海底ケーブルが日本のどこに上がるかを地名で言い、そこに集まる理由と、ほかの場所へ分ける理由を説明できるようになる。」を、いまの自分の言葉で一文にしてみてください。途中の説明でも大丈夫です。



