イト
海の底で切れた線って、どうやって直すの? 人がもぐるの?
マコト
もぐらずに、船の上まで引き上げるらしいよ。でも、広い海のどこで切れたかは、どうやって知るんだろう
ピコ
陸から光を送って測るんだ。船が港を出るころには、だいたいの場所はもうわかってる
イトはラボのホワイトボードに海の断面を描き、底に「8,000m」と書いて手を止めました。富士山を2つ重ねても、海面に届かない深さです。そこに沈んだ太さ2cmほどの線を、だれが、どうやって直すのか。
海底ケーブルの修理はどうやる?手順と数字
海底ケーブルの修理は、海の中では行いません。陸から光で切れた場所までの距離を測り、専用の船が海底の線を引き上げ、船の上で予備の線をつないで沈め直します。通常は1か所7〜10日かかります(KDDIの記事)。
修理を受け持つ会社と、国際団体の資料にある数字です。
| 何の数字 | どれくらい |
|---|---|
| 船が動き出すまで | 要請から通常24時間以内に、機材の積み込みを始める |
| 修理船の速さ | 時速約28km。1日で約670km |
| 深い海からの引き上げ | 水深8,000mからだと、丸1日を超えることがある |
| 線をつなぐ作業 | つなぎ目1か所に10〜24時間 |
| 1か所の修理 | 通常7〜10日 |
※ 1〜3行目はKDDIケーブルシップ(2行目はKDDIオーシャンリンク。1日の距離は掛け算)、4行目は国際ケーブル保護委員会(ICPC)と国連環境計画の2009年の報告書、5行目はKDDIの記事。
意外なのは、船が現場で最初にする作業が「切る」ことです。傷んだ線は、海底でわざと切ってから引き上げます。順番を7枚の図にしました。
故障を検知する

故障が起きたことを検知する
おおよその距離を割り出す

切れているおおよその距離を割り出す
ケーブル船が現場へ向かう

ケーブル船が現場の海域へ向かう
海底から引き上げる

海底からケーブルを引き上げる
傷んだ部分を除き、接続する

傷んだ部分を切り離し、接続し直す
通信が通るか試験する

試験をして、通信が通ることを確かめる
海底へ戻す

海底に戻して沈める。足した線は、元の道から横へ張り出す形になる
図の1と2は、海の上の話ではありません。船が現場に着く前に、陸の建物の中で進みます。
TERM PRIMER
海底ケーブルの修理|この記事に出てくる言葉
切れた場所は、どうやって見つける?
見つけるのは、線が陸に上がる所の建物、陸揚げ局です。道具は、線の中を通る光そのもの。
陸揚げ局から測定用の光を送ると、光ファイバーのあちこちから、ごく弱い光が散らばって戻ってきます。切れた所から先は、何も戻ってきません。戻りがぷつりと途切れる所までの距離が、切れた場所です(KDDIの技術記事)。距離は、光が行って戻るまでの時間から出します。
光ファイバーは無事で、線の皮だけが傷つく故障もあります。漏れ出すのは、線の中を流れる海底の機械用の電気です。このときは、陸でかけている電圧と電流の値から場所を計算します(KDDIケーブルシップの2021年の講演資料)。
出てくるのは「陸から何kmの所」という距離です。敷いたときの道の記録に当てはめると、海の上の位置になります。ただし、そこは海面のはるか下です。
深い海の底の線を、どうやって船まで引き上げる?
イト
場所がわかったら、切れたところを引っかけて持ち上げるだけでしょ
ピコ
引っかけても、持ち上げるだけの余りがないんだ。だから最初に、船のほうから線を切る
余りがないのは、敷くときに、海底の形に沿わせる分の2〜3%しか持たせていないからです。だから海底で切り、端を片方ずつ引き上げます。
やり方は釣りです。東日本大震災の修理にあたったKDDIケーブルシップの担当者は、深い海では「フックのついたワイヤーを下ろし、まるで釣り針のように」線を引っかけて巻き上げる、と話しています(KDDIの記事)。
- 船が、切れた場所の真上に着く
- ロープの先に、線を探して切る道具を付けて下ろす。海底を引きずり、線を切る
- つかむ道具を下ろして片方の端をつかみ、船に巻き上げる
- 船の上で光と電気の試験をし、傷んだ部分を切り取る
- 端に水が入らないよう封をし、ロープと浮きを付けて、いったん海に下ろす
- もう片方の端も、同じやり方で引き上げる
道具は、海の深さで変わります。
| 海の深さ | 使うもの |
|---|---|
| 水深20mまでの岸の近く | 台船と、ダイバー |
| 水深2,500mまで | 水中ロボット(KDDIオーシャンリンクに積むもの)。カメラで線を見ながら、切ってつかむ |
| もっと深い海 | フックのついたワイヤー。水深約7,000mで直した例がある |
※ KDDIケーブルシップの案内。2行目は、船に積んだ水中ロボットが作業できる深さです。
イトの問いに答えると、人が潜るのは、船が入れない水深20mまでの岸の近くです。
2つの端が、船に上がりました。ところが、そのままではつなげません。長さが足りないのです。
船の上で、どうやってつなぎ直す?
海底でまっすぐだった線の両端を、海面まで持ち上げました。水深4,000mなら、片方だけで4km以上の線が、海底から船までの間に使われます。足りないぶんは、船のタンクに積んできた予備の線で埋めます。だから、つなぎ目は2か所になります。
- あとから引き上げた端に、予備の線をつなぐ
- 予備の線を繰り出しながら、浮きを付けた最初の端まで船を進める
- 最初の端を引き上げ直し、予備の線の反対の端とつなぐ
- 両岸の陸揚げ局の間で試験をし、通信が戻ったことを確かめる
- 船の上の線を海に下ろす
※ 前の節の6つと合わせて、KDDIケーブルシップの修理手順です。
つなぎ目1か所にかかるのは、10〜24時間。髪の毛ほどの光ファイバーを、ずれなくそろえてつなぎ、試験をし、最後に引っぱる力に耐える覆いをかぶせます。電気の信号を送っていた昔の線は、3〜6時間で済みました(ICPCと国連環境計画の報告書)。いまはそれを、揺れる船の上でやります。
直した線は、前より長くなっています。岸に近い埋めてある線では、足した線を元の道から直角に張り出す形で置き、水中ロボットが水の勢いで溝を掘って埋め直します(同じ報告書)。
引き上げが2回、つなぎ目が2か所。深い海では、この4つだけで数日が過ぎます。
修理には何日かかる?通常は1か所7〜10日
通常の修理は、1か所あたり7〜10日です(KDDIの記事)。その間も、通信は残りの線に回っています。通信が戻る日と線が直る日のずれは、海底ケーブルが切れたらどうなる?に実例があります。
日数を大きく延ばすのは、切れ方です。
| いつ・どこ | 切れ方 | かかった日数 |
|---|---|---|
| ふだんの修理 | 1か所 | 7〜10日 |
| 2024年 能登半島地震(日本海) | 4か所。海底の地すべり | 修理工事70日、場所の特定に14日 |
| 2011年 東日本大震災(千葉・茨城沖) | 20か所以上が同時に | 150日以上 |
※ 能登はKDDIケーブルシップの2024年の講演資料、震災はKDDIの記事。総務省の白書は、震災でのKDDIのケーブルの障害を10か所、完全復旧まで半年としています。
延びる理由は5つです。
- 何か所も同時に切れる — ふだん同時に直すのは1〜3か所。震災では20か所でした
- 線が土砂に埋まる — 能登では線と中継器の一部を回収できず、船の予備が足りなくなりました。線を探して引っかけること10回、つなぎ目は22、使った線は約120km
- 海が荒れる — 修理の間、船は同じ位置にとどまり続けます。黒潮の強い流れや台風で、計画どおりに進まないことが、たびたび起きています(2021年の講演資料)
- 許可に時間がかかる — 以前は数日で取れた工事の許可に、数週間かかることがあります(同じ資料)
- 船が空いていない — 保守船の稼働の状況によっては、必要なときに確保しにくくなります(総務省の報告書)
では、その船はだれのもので、どこで待っているのか。
だれが直す?日本の海を受け持つ3隻
世界の海には6つの保守エリアがあり、その海に線を持つ会社どうしが協定を結んで、修理船を保つ費用を出し合っています。日本を含む「横浜ゾーン」を受け持つのは、日本・中国・韓国の3隻。横浜、上海、釜山の船で、うち2隻がいつも待機しています(総務省の資料)。
横浜の1隻が、KDDIケーブルシップのKDDIオーシャンリンクです。受け持つ海は、グアム島を含む太平洋の西側(西経167度より西)と、日本から台湾まで。日本ではほかに、NTTワールドエンジニアリングマリンが、日本に上がる国際ケーブルなどの保守をしています。
切れていない日は?海底ケーブルのメンテナンス
修理のない日も、保守は続きます(NTTワールドエンジニアリングマリンの案内)。
- 待機 — いつでも出られる体制で待つ「スタンバイ保守」と、故障のたびに体制を組む「オンコール保守」がある
- 点検 — 線のすり減りや異常を定期的に調べ、必要なら補修して故障を防ぐ
- 記録 — 陸に上がる場所、ルート、埋めた深さ、線の種類を記録し続ける
3つ目の記録が、切れた日に「陸から何km」を海の上の位置に変えます。
ミニクイズ:修理の方法を3問で
Q1. 海底ケーブルが切れた場所は、どうやって見つけますか?
A. 陸揚げ局から測定用の光を送り、戻ってくる光が途切れる所までの距離を測ります。
Q2. 深い海の底の線は、どうやって直しますか?
A. 人は潜りません。フックのついたワイヤーで線を引っかけて船に引き上げ、船の上で予備の線をつなぎ、沈め直します。
Q3. 修理には何日かかりますか?
A. 通常は1か所7〜10日です。20か所以上が同時に切れた東日本大震災では、150日以上かかりました。
8,000mの底の線は、船の上で直す
イトはホワイトボードの海面に船を描き足し、底の線まで、フックのついた長い糸を下ろしました。「もぐるんじゃなくて、釣るんだ」。
いまなら「海の底の線、どうやって直すの?」と聞かれても、答えられます。陸から光で場所を測る。海底で切って、船に釣り上げる。予備の線を足して、船の上でつなぐ。通常は1か所7〜10日。
直せる余地まで考えて線を守る話は物語の第36話に、その線が海外との通信で担う役割は海底ケーブルとはにあります。
この記事について
LAB WHITEBOARD
海底ケーブルの修理を一文で説明してみよう
「海底ケーブルの修理を、切れた場所の探し方・引き上げ方・つなぎ方・かかる日数の数字を添えて説明できるようになる。」を、いまの自分の言葉で一文にしてみてください。途中の説明でも大丈夫です。



