イト
海の底って、何千メートルもあるんでしょ。あんなところに、どうやって線を敷いたの?
ピコ
深い海の底までは、だれも行ってないよ。船の上から垂らしたんだ。ほら、沖のあの船みたいに
ピコがイトを連れてきたのは、陸揚げ局の窓辺でした。水平線の手前に船が1隻。動いているのか止まっているのか、見分けがつきません。線を海底に沿わせるには、このゆっくりした進み方が必要です。
海底ケーブルはどうやって敷いた?数字と7枚の図
海底ケーブルは、敷設船(ふせつせん)という専用の船に巻いて積み、速くても時速11〜15kmで進みながら海へ繰り出して敷きました。深い海では海底にそのまま置き、水深約1,000mより浅い海では0.6〜2m下に埋めます。
公式の資料にある数字です。
| 何の数字 | どれくらい |
|---|---|
| 1隻に積める線 | 深海用で5,000kmぶん(KDDIケーブルインフィニティ) |
| 深い海を進む速さ | 速くても時速11〜15km。自転車ほど |
| 埋めながら進む速さ | 時速1.0km。歩く人の4分の1 |
| 埋める深さ | 海底の下0.6〜2.0m |
| 線を置ける深さ | 水深約8,500mまで |
| 線の太さ | 深い海で17〜21mm。庭のホースほど |
| 日米約9,000kmの工事 | 約1年10か月、306億円(FASTER) |
※ 1・3・5行目はKDDIケーブルシップ、4行目はNTTワールドエンジニアリングマリン、2・6行目は国際ケーブル保護委員会(ICPC)と国連環境計画の2009年の報告書、7行目はKDDIの発表とKDDI総合研究所の資料。3・4行目は海底の質で変わります。
意外なのは、手間がかかるのが深い海ではなく、岸に近い浅い海だという点です。同じ1kmを敷くのに、10倍以上の時間をかけます。
作業の順番を7枚の図にしました。3〜6は、KDDIケーブルシップが公開している手順の例です。
海底の地形を調べる

海底の起伏や地質を調べ、通す道筋を検討します。
ケーブルを船に積む

工場で作ったケーブルを、船内のケーブルタンクへ順に巻いて積み込みます。
岸側のケーブルを陸へ上げる

ここでは、先に一方の岸へケーブルを引き込む工事の例を見ます。浮きで支えてから海底へ沈めます。
沖へ向かって送り出す

船の速さと送り出す量を合わせ、沖へ向かって海底の地形に沿わせます。
浅い海でケーブルを守る

水深約1,000mより浅い海では、鋤(すき)の形の機械で海底の下に埋めます。錨(いかり)や漁の網から守るためで、敷設と同時に進める方法があります。
反対側の区間とつなぐ

反対側で先に敷いた区間などと接続し、通信の道をつなぎます。
つながりを試験する

光信号や給電系統などを試験し、設計どおりにつながっているかを確かめます。
図6のとおり、線は端から端まで一筆書きで敷くわけではありません。反対の岸の浅い海に先に敷いておいた線と、海の上でつなぎ、つないでから沈めます。日本とアメリカを結ぶFASTERは約9,000km。5,000kmぶん積める今の船でも、1隻には収まらない長さです。
岸の場所は海底ケーブルは日本のどこに上がる?、太さ2cmの線の中身は海底ケーブルの仕組みで確かめられます。
太平洋を渡る長い道のりを、自転車ほどの速さで進む。なぜもっと速く敷けないのでしょうか。
TERM PRIMER
海底ケーブルの敷設|この記事に出てくる言葉
船の速さは、どうやって決めている?
イトは「もっと飛ばせば、早く終わるのに」と言いました。
船の速さは、線を繰り出す速さと組で決めます。線を、船が進む距離より少しだけ長く出すためです。海底が平らなら、船が100m進む間に出す線は102〜103m(ICPCの報告書)。この余りがあるから、線は谷や岩の形に沿って落ち着きます。足りなければ岩と岩の間で宙に浮き、多すぎれば輪になります。
出だしは、もっと慎重です。線の先が海底に着くまで、船はごくゆっくり進みます。着いてから速さを上げ、海底が下り坂なら線を多めに、上り坂なら少なめに。途中の中継器を船の機械に通すたびに、また速さを落とします。止まって見えた船の上では、この計算が続いていました。
船の速さを決めるには、線が沈んだ先の地形も知っておかなければなりません。そこで必要になるのが、光の届かない海底の地図です。
まっすぐ引けばいいのに、なぜ先に海底を調べる?
設計は、本当に直線から始まります。2つの岸を結ぶ最短の線を引き、そこから海底の起伏や、先に敷かれたほかのケーブルを避けて、道を曲げていきます(NTTワールドエンジニアリングマリン)。
机の上で決めた道は、船で確かめます。船から音を出し、海底からのはね返りで深さを測る方法です。一度に測れる幅は水深の3〜5倍で、深い海では最大20km。埋める予定の浅い海では、幅1kmほどの帯にしぼって細かく測り、海底の下の地層を音で探り、土も採ります(ICPCの報告書)。
見るのは、海底の質、起伏、潮の流れ、漁の様子。少し遠回りでも、線が傷みにくい道を選びます。
道が決まると、どこからどこまでを埋めるかも決まります。
浅い海だけ埋めるのはなぜ?深さは0.6〜2m
イト
浅いところの方が安全そうなのに、わざわざ埋めるんだ
ピコ
浅いところは人が近いからね。深い海より、人のいる海の方が危ないんだ
線を傷つける相手は、深い海の水圧ではなく、船の錨(いかり)と漁の網です。どちらも浅い海に集まります。
| 海の深さ | 埋める深さ | 守る相手 |
|---|---|---|
| 水深100〜150mまで | 1.5〜2.0m | 大型船の錨 |
| 水深1,000mまで | 0.6〜1.0m | 底引き網などの漁 |
| それより深い海 | 埋めずに置く | — |
※ 上の2行はNTTワールドエンジニアリングマリンの案内。漁が海底の下に及ぶ深さは、0.5〜0.6mと考えられています。
錨への備えが水深100mを超えるのは、嵐のためです。大型船がふだん錨を下ろすのは水深50mほどまで。嵐のときは、ブレーキ代わりに水深110mほどの海でも下ろすことがあります。
埋める機械は、畑を耕す鋤(すき)の形です。KDDIケーブルシップのPLOW-IIは、重さ24トン。船が10〜45トンの力で海底を引いて溝を掘り、同時に線を落とし込みます。鋤が使えない急な斜面は、水中ロボットが水の勢いで掘って埋めます。
浅い海が手ごわいのは、いまに始まった話ではありません。
最初の1本は、いつ誰が敷いた?
船から垂らす方法は、170年以上前から同じです。
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1850年 | 蒸気の引き船ゴライアス号が、英仏間のドーバー海峡に最初の1本を敷く。数通を送っただけで不通に |
| 1851年 | 鉄線で巻いた丈夫な線に取り替え、約10年使われる |
| 1858年 | 最初の大西洋横断。26日で故障 |
| 1866年 | グレート・イースタン号が敷き直し、大西洋横断に成功 |
| 1871年 | 日本で最初の1本。デンマークの大北電信会社が、長崎〜上海と長崎〜ウラジオストクを結ぶ |
| 1964年 | 電話を運べる日本初の太平洋横断ケーブル(TPC-1) |
※ 1866年まではICPCと国連環境計画の報告書、日本の2行はKDDIの記事。
最初の1本は、外側を守るもののない線でした。壊した相手は、深さではなく、海峡の波と潮の流れ。翌年の答えが、鉄線の鎧です。浅い海の線を鉄の線で巻いて守るやり方は、いまも変わりません。
では、いまの1本には何年かかるのでしょう。
完成までどれくらい?日米9,000kmで約1年10か月
FASTERは、2014年8月に建設が始まり、2016年6月30日に運用を始めました(KDDIの発表)。約1年10か月です。建設費は306億円でした。
1964年の太平洋横断ケーブル(TPC-1)は、約2年半と、当時の金額で297億円(KDDI総合研究所の比較)。半世紀たっても、年月と金額はほとんど変わっていません。変わったのは運べる量で、電話に直すと約734万倍です。
船が進む時間だけなら、ずっと短く済みます。9,000kmを時速11〜15kmで割ると、休まず進んで25〜34日※。工事には、その前後に、道の調査、役所の許可、漁協との話し合い、線の製造、つないだあとの試験があります。敷設船が沖に見えるのは、長い工事の終わり近くです。
※ 割り算だけの目安。実際は区間を分けて敷き、浅い海では埋めながら進みます。
4コマで描くワーク
紙を4つに区切り、線と丸で描きます。
- 調べる — 凸凹の海底と、その上で音を出す船
- 岸へ上げる — 沖の船から岸の建物へ、浮きで支えた線
- 沖へ敷く — 浅い海は埋め、深い海は海底に置く
- つないで試す — 海の上でつなぎ、両岸の設備から通信を確かめる
ミニクイズ:どうやって敷いたかを3問で
Q1. 海底ケーブルは、どうやって敷きましたか?
A. 敷設船に巻いて積み、船を進めながら海へ繰り出して敷きました。深い海では置き、水深約1,000mより浅い海では埋めます。
Q2. 浅い海で、わざわざ埋めるのはなぜですか?
A. 船の錨や漁の網が届くからです。錨に備える海では1.5〜2.0m、漁に備える海では0.6〜1.0m下に埋めます。
Q3. 最初の海底ケーブルは、いつ敷かれましたか?
A. 1850年、英仏間のドーバー海峡です。日本では1871年、長崎から上海とウラジオストクへつながりました。
止まって見えた船は、進んでいた
窓の外の船は、さっきより少しだけ右にいました。イトは「歩くより遅いんだ。じゃあ、いま埋めてるところだ」と言って、しばらく目を離しませんでした。
「どうやって敷いたの?」への答えは、船から繰り出し、深い海では置き、浅い海では埋めた、です。同じ船でも、海底の形や線を守る必要に合わせて進み方を変えています。
そこまでして埋めた線も、切れる日があります。そのとき日本のネットは止まるのか。海底ケーブルが切れたらどうなる?で確かめられます。
海と陸の線が出会う場面は物語の第34話に、線が国際通信で担う役割は海底ケーブルとはにあります。
この記事について
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海底ケーブルの敷設を一文で説明してみよう
「海底ケーブルを敷く方法を、敷設船の速さ・埋める海の深さ・かかる年月の数字を添えて説明できるようになる。」を、いまの自分の言葉で一文にしてみてください。途中の説明でも大丈夫です。



