自分で切ってみる
海底ケーブルを1本切ってみる
海外へ向かう通信が、3本の道に分かれて進む模型です。道を切ると、残った道に通信がどう集まるかを確かめられます。
教材用の模型です。1本の道に通せる量を4、海外へ送りたい量を6としています。実際のケーブルの本数・容量・経路は、この図とは違います。
日本
道A近い海を通る道
道B近い海を通る道
道C別の地域を回る遠い道
海外のサーバー
| 状態 | 道の使われ方 | どうなる? |
|---|---|---|
| どの道も切れていない |
| ふだんどおり届く |
| 道Aが切れた |
| 届くけれど、混みやすく遠回りになる |
| 道Aと道Bが切れた |
| 入りきらない分が、順番待ちになる |
国内のサーバーだけで完結するサイトは、この海外への道を使いません。影響が出やすいのは、海外のサーバーとやり取りする通信です。
TERM PRIMER
海底ケーブルの切断|この記事に出てくる言葉
ラボの古いテレビに「海底ケーブル切断」の速報が流れた日、ユイはノートを持つ手を止めました。
ユイ
海底ケーブルが切れたってニュース、日本のネットが全部止まるってことですか?
マコト
心配になるよね。でも、海へ出ていく道は1本だけじゃないんだ
1本だけではないなら、何本あるのか。数えるところから始めます。
海底ケーブルが切れたら、日本は終わる?
終わりません。日本と海外をつなぐ国際海底ケーブルは、2025年の時点で25本あるからです(運用開始予定を含む。総務省の資料)。1本切れても、通信は残りの道へ回ります。
しかも、切断は珍しい出来事ではありません。ITU(国際電気通信連合)によると、2025年に世界で報告された海底ケーブルの修理は170件を超えました。ならすと、およそ2日に1件。それでも、あなたのスマホは昨日も海外のサイトを開けたはずです。損傷のほとんどは、通信の中断にならずに済んでいます(国際団体ICPC)。
道が1本しかない国では、話が変わります。南太平洋のトンガは、国の外とつながる固定の回線が海底ケーブル1本だけでした(国連ニュース)。2022年1月、海底火山の噴火でその1本が切れ、通信が戻るまでに5週間かかっています(総務省の情報通信白書)。
「切れたら終わる」かどうかを決めるのは、切れたことではなく、残りが何本あるかです。
誰が切っている?わざと切られることは?
主な原因は、漁の網や船のいかりによる事故です。地震や海底の地すべりが続きます(ITU)。日本のまわりの東シナ海と南シナ海は、世界で見ても修理がとくに多い海です(総務省の報告書)。
同じ報告書は、意図的と思われる損壊も出てきているとしています。ただし、数は多くありません。ICPCのまとめでは、盗みや破壊といった意図的な損傷に、意図を確かめられない例を足しても、年間の損傷の1%未満です。
事故でも、わざとでも、切れたあとに起きることは同じです。25本のうち1本が切れた瞬間、そこを通っていた通信はどうなるのでしょうか。
1本切れた瞬間、通信はどこへ行く?
起きることは、高速道路の通行止めに似ています。いつもの道が1本止まっても、別のインターチェンジから目的地へ回り込めます。
上の模型で「道Aを切る」を押したときも同じです。道Bが満杯になり、入りきらない分が遠回りの道Cへ回ります。本物のネットワークで起きるのは、次の6つです。
- どこかの海でケーブルが切れる
- その道を通れなくなったことが、ネットワークの機器に伝わる
- 機器が、通れる別の道を選び直す
- 通信は残った道や、別の国を回る道へ移る
- 残った道に通信が集まり、混み合う
- 修理が終わるまで、その状態が続く
道路と違うのは、運転手がいないことです。道を選ぶのは機器で、機器どうしが「いま通れる道」の情報を交換して、送り先を切り替えます。
結果を分けるのは、別の道があるか、そこに余裕があるかの2点です。
| 残った道 | 起きること | 模型で試すなら |
|---|---|---|
| あり、余裕も十分 | ふだんどおり届く | 道Cだけを切る |
| あるが、余裕が足りない | 届くが遅くなり、あふれた分は順番待ち | 道Aと道Bを切る |
| ない | その相手とは通信できない | 3本とも切る |
表の2行目では、通信は届いても遅くなります。接続が保たれていることと、ふだんどおり使えることは別なのです。
ユイ
止まらないなら安心……でも、なぜ海外のサイトだけ重く感じるんでしょう
マコト
道が減ると、残った道に車が集まる。通れるけど、前より時間がかかるんだ
止まらないのに、海外のサイトだけ遅いのはなぜ?
理由は、遠回りと混雑の2つです。
近い海を通っていた通信が別の地域を回ると、行って帰る距離が延びます。この往復の待ち時間がレイテンシです。ページが開くまでの間、通話の声のずれ、ゲームの反応の遅れとして表に出ます。そこに重なるのが混雑です。減った道に同じ量を通すので順番待ちが起き、時間帯によって重さが変わります。
重くなるのは、海の道を通る通信です。
- 海外にあるサーバーとやり取りするサービス
- 海外の相手とつなぐオンライン会議や通話
- 海外のゲームサーバーへつなぐ対戦
- 海外の拠点にしかデータがない業務システム
海の道を通らない通信は、変わりません。
- 国内のサーバーだけで完結するWebサイト
- 国内の配信拠点から届く動画のストリーミング
- 家の中の機器どうしのやり取り
だから同じ家の中でも、国内の動画は普通に見られるのに、海外のゲームだけ重い、ということが起きます。ユイは「全部止まるか、全部動くか、どっちかだと思ってました」とノートに書きました。影響を確かめるには、使えないサービスと使えるサービスを分けて見る必要があります。
遅い迂回路に、何を先に通すか。イトがその選択を迫られる話が、物語の第34話です。
遅くなるだけなら、まだ使えます。使えなくなるのは、次の場合です。
それでも本当に困るのは、どんなとき?
同じ海で、何本もまとめて切れたときです。 日本の通信が実際に巻き込まれた例が2つあります。
1つ目は2009年8月。台湾沖を通る海底ケーブルが、9日から17日にかけて7本、次々に故障しました。KDDIの発表では、アジアの一部地域に向けた国際電話、海外での携帯電話の着信、企業の国際専用線が使えなくなっています。7本切れて止まったのは主に「アジアの一部との通信」で、ほぼ元どおりになるまでに10日かかりました。
2つ目は2011年3月の東日本大震災です。総務省の情報通信白書によると、KDDIの海底ケーブルが茨城県沖や千葉県の銚子沖など10か所で障害を起こし、10か国以上につながる回線に影響が出ました。完全に直るまで半年かかっています。
日本には弱点もあります。海底ケーブルが陸に上がる場所が、千葉県の房総半島と三重県の志摩半島に集中していることです。総務省は、首都圏で大規模な災害が起きると全国規模で通信に大きな影響が出る可能性があるとして、上がる場所を各地に分ける取り組みを進めています。いまの場所と新しい計画は、海底ケーブルは日本のどこに上がる?で確かめられます。
ところで、2009年の「10日」には続きがあります。通信が戻った8月19日、海の底のケーブルの多くは、まだ直っていませんでした。
切れたケーブルはどう直す?どれくらいかかる?
実例では、2週間から半年です。 2本だけの故障は2週間以内、何本もまとめて切れた災害は1か月から半年でした。1か所を直す作業そのものは、通常7〜10日です(修理の手順)。
| いつ・どこ | 切れ方 | 元に戻るまで |
|---|---|---|
| 2024年11月 バルト海 | 2本 | 2週間以内。通信は止まらず |
| 2009年8月 台湾沖 | 7本 | 約1か月(主な線の修理予定) |
| 2022年1月 トンガ | 国に1本だけの線 | 5週間 |
| 2011年3月 東日本大震災 | 10か所(KDDIの分。千葉・茨城沖の全体では20か所以上) | 半年 |
※ バルト海はICPC、台湾沖はKDDIの発表、トンガと震災は総務省の情報通信白書。場所、海の環境、壊れ方で変わります。
時間がかかるのは、海の底の線を部品のように差し替えられないからです。切れた場所を調べ、専用の船が現場へ向かいます。船の上でケーブルを巻き上げ、故障部分を取り除き、つなぎ直して、海底に敷き直します(NTTワールドエンジニアリングマリンの修理案内)。日本を含む海域は日本・中国・韓国の船3隻が受け持ち、2隻が常に待機しています(総務省の資料)。工程の中身は、海底ケーブルの修理はどうやる?で順に追えます。
「通信が復旧した」と「ケーブルを直した」は別
2009年の台湾沖では、通信は8月19日にほぼ戻りました。一部のケーブルを直し、残りは衛星やほかの海底ケーブルに緊急で迂回したからです。一方、主なケーブルの修理が終わる予定は9月上旬。通信が戻ってから、さらに2〜3週間先でした。
ニュースに「復旧」と出たら、どちらの意味かを確かめます。戻ったのが通信だけなら、切れた道は海の底で切れたまま。残りの道で持ちこたえている最中です。
衛星通信に切り替えれば大丈夫?
衛星は、つなぎ役にはなります。2009年の迂回にも使われました。ただし主役は務まりません。総務省の資料では、海底ケーブル1本が運べる量は、衛星1機の約160倍。日本の国際通信の約99%は、いまも海底ケーブルを通っています。海と空の道の違いは、衛星インターネットの仕組みで確かめられます。
次に切断のニュースを見たら、確認する3点
次にラボのテレビへ同じ速報が流れたら、ユイは手を止める代わりにスマホのメモを開きます。書くのは3点です。
- 自分が困っているのは何か — 海外のサービスだけか、国内も含めてか
- 同じ環境の人はどうか — 家族や同僚も同じ症状か、自分だけか
- 通信会社と利用サービスの公式情報 — 対象の地域・サービス・発生時刻が、自分の症状と合うか
書き出す例:
- 困っているのは、海外のオンライン会議の音声が途切れること
- 同じWi-Fiの家族は、国内の動画を普通に見られている
- 会議サービスの公式情報には、まだ何も出ていない
この例なら、次に見るのは契約中の通信会社の障害情報です。発生時刻と困っているサービスを書いてあるので、問い合わせるときもそのまま伝えられます。自分の回線への影響が公式情報に出ていれば、あとは案内に従って待つだけです。
書いた内容は、次の表に当てはめます。
| 見え方 | 次に確かめる所 |
|---|---|
| 国内サイトは普通、海外だけ重い | 海外への経路か、そのサービスの障害情報 |
| 海外サイトも普通に開ける | 影響を受けていないか、うまく迂回できている |
| 一部のサービスだけつながらない | そのサービス側の設備や設定 |
| 家の中の機器も反応が悪い | 家のWi-Fiや端末 |
※ 会社名や画面の言葉だけでは、通り道は決まりません。海外企業のサービスが国内の配信拠点から届くことも、日本語のサイトが海外の設備を使うこともあります(海外のサイトはどう届く?)。
ニュースを見ただけで、ルーターを初期化しないでください。設定が消えるだけで、海の底の故障は直りません。自分の端末だけで起きているなら、Wi-Fiは繋がってるのにネットが見れないときの順番で確かめます。
ミニクイズで切断の影響を確かめる
Q1. 海底ケーブルが切れたら、日本のネットは終わりますか?
A. 終わりません。日本と海外をつなぐ国際海底ケーブルは2025年の時点で25本(運用開始予定を含む)あり、1本切れても通信は残りの道へ回ります。
Q2. 迂回できるのに、なぜ海外のサイトだけ遅くなるのですか?
A. 遠回りで往復の距離が延び、残った道に通信が集まって混むからです。国内のサーバーだけで完結するサイトは海の道を通らないので、変わりません。
Q3. 「通信が復旧した」と出たら、海底ケーブルも直っていますか?
A. 別の話です。通信は迂回で先に戻り、ケーブルの修理はあとから終わります。2009年の台湾沖の故障では、通信がほぼ戻ったのは10日後、主なケーブルの修理完了は翌月上旬の予定でした。
3つとも答えられたら、次の速報では切断の本数と場所にも目を向けてみてください。「復旧」の知らせが続いたら、戻ったのは通信なのか、ケーブルの修理まで済んだのかを確かめましょう。
この記事について
LAB WHITEBOARD
海底ケーブルの切断を一文で説明してみよう
「海底ケーブルが1本切れても日本のネットが止まらない理由と、何本もまとめて切れたときに起きることを、数字と実例で説明できるようになる。」を、いまの自分の言葉で一文にしてみてください。途中の説明でも大丈夫です。




