ドアが閉まると、機内モードにするよう案内が流れます。ところが離陸してしばらくすると、今度は機内Wi-Fiの案内。電波を止めた直後に、電波でつなぐ。ラボでこの話をすると、イトが引っかかりました。
イト
電波がダメなのに、Wi-Fiはいいの? Wi-Fiも電波でしょ
ユイ
同じ電波のはずですよね。……どこが違うんでしょう
違いは、その電波がどこへ向かうかにあります。
TERM PRIMER
飛行機のWi-Fiと機内モード|この記事に出てくる言葉
なぜ飛行機では機内モードにする?
飛行機で機内モードにするのは、スマホが地上の基地局へ出す電波が運航の安全に支障を及ぼすおそれがあり、航空法にもとづく決まりで止められているからです。
スマホは電源が入っているあいだ、近くの基地局とやりとりを続けるために、自分から電波を出します。機内モードは、この電波をまとめて止める設定です。
根拠は航空法第73条の4です(国土交通省の案内)。止める対象と時間は、告示(国が出す決まり)で決まっています。
- いつから:離陸のために、すべてのドアが閉まった時
- いつまで:着陸して、滑走が終わる時(滑走路を離れて、誘導路に入った時)。解除は、機内の案内を待ってからにします
- 何を:機体の外の設備と無線通信をする状態のスマホ、パソコン、ゲーム機、モバイルルーターなど
※ B787やA320など、電波への耐性がいちばん高い区分の機体の場合です。
お願いではなく、法律です。機長の禁止命令に従わずに続けると、50万円以下の罰金の対象になります。し忘れに気づいたら、その場で機内モードにしてください。
何に支障が出るのか。国土交通省が機体の評価で対象に挙げているのは、無線での交信、着陸の誘導、衝突の防止、GPSなどに使う機体の無線機器です。
「昔は電源を切るように言われた」という記憶も、まちがいではありません。2014年春の国土交通省の資料では、機内モードのスマホも、上空を飛んでいるあいだを除き、ドアが閉まってから開くまで使用禁止でした。告示が改められたのは、同じ年の9月1日。機体が電波に耐えられると確かめられた分だけ、制限が外れてきました。
「上空はどうせ圏外だから同じ」とはなりません。決まりが見ているのは、画面の表示ではなく設定です。国土交通省の資料では、通常モードのままの携帯電話は、どの区分の機体でも使えません。マナーモードも音と振動の設定で、電波は止まりません。
それなら、Wi-Fiも止まるはずです。
機内モードなのに、Wi-Fiが使えるのはなぜ?
告示が止めているのは、電波そのものではありません。止めているのは、「航空機外の設備と無線通信を行う状態」のスマホです。
機内Wi-Fiでスマホが話す相手は、無線の機器(アクセスポイント)で、機体の中にあります。だから国土交通省の資料でも、機内モードにして機内の無線LANへつなぐスマホは「使用制限無し」です。Bluetoothのイヤホンを使えるのも、相手が機内の機器だから。自分のモバイルルーターは、機体の外と通信するので使えません。
つなぐ順番も、この決まりどおりです(ANAの国内線の案内)。
- 機内モードをオンにする
- Wi-Fiだけをオンに戻し、機内のネットワーク(ANAは「ANA-WiFi-Service」)につなぐ
- 案内のページを開き、「インターネット」を選ぶ
スマホの仕事は、ここまでです。
機内Wi-Fiの先は、ケーブルでつながっている?
イト
機内のWi-Fiってさ、飛行機から地上まで長いケーブルがつながってるってこと?
ユイ
それだと離陸できません。……でも、線でないなら、何でつながっているんでしょう
漫画:空へ、線は伸びている? 全4ページ
イトは飛行機の模型を見て、地上まで線が伸びるのかと考える。ユイと機内の端末とアクセスポイントを見つけ、外へ出る別の設備と道を確かめる。最後は二つの段に札を置き、自分で道を分けてたどる。
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飛行機や機器はラボの模型です。外へ出る方式は機体や路線で違い、実際の利用はその便の案内に従います。
ケーブルは伸びていません。機内Wi-Fiは、2つの段に分かれています。
- 機内の段 — 座席のスマホと、機内のアクセスポイントがつながる
- 機外の段 — 機体の設備が、機体の外の相手と通信する
スマホが受け持つのは、機内の段だけ。家でスマホがルーターとつながり、ルーターが外の回線とつながるのと同じ形です(Wi-Fiの仕組み)。
たとえるなら、アクセスポイントは受付です。乗客の荷物を受け取って外へ出す担当に渡し、届いた返事を正しい席へ返します。ここまではカフェのWi-Fiと同じ。違うのは、この受付が時速数百キロで移動していることだけです。
動く受付は、外のだれに荷物を渡しているのでしょうか。
機体の外へは、何を通ってつながる?
道は2つあります。空の衛星か、地上のアンテナ(地上局)です。
| 方式 | 機体の相手 | 届く場所 |
|---|---|---|
| 衛星 | 空の衛星 | 海の上でも届く |
| 地上局 | 地上に建てたアンテナ | アンテナのまわりの上空 |
ANAは、国内線の機内Wi-Fiを「衛星通信を利用して提供されるサービス」と案内しています。衛星は中継役で、データは空から地上の設備へ降り、そこでインターネットに入ります(衛星インターネットの仕組み)。
地上局の例はヨーロッパの「European Aviation Network」で、地上のアンテナ約300か所と衛星を組み合わせています。陸のアンテナの電波は、沖までは届きません。そこで運用するドイツテレコムなどは2022年、北海の海上にある生産施設5か所に、ヘリコプターで機材を運んでアンテナを載せました。
どちらの道でも、受付は動き続けます。機体が進むと相手の受け持ちから外れるので、次の地上局や衛星へ乗り換えます。その瞬間に、通信が一瞬とぎれたように感じることがあります。
道の作りが違えば、使える内容も変わります。
無料?動画や通話は?どの便で使える?
航空会社と機体で変わります。ANAの国内線なら、こうです(2026年10月に閲覧した案内)。
| 知りたいこと | ANA国内線の案内 |
|---|---|
| 料金 | 全クラス無料 |
| できること | メッセージ、ウェブの閲覧、動画の視聴(有料の配信サービスは自分で契約) |
| できないこと | 通話(音声・ビデオとも)。大容量のダウンロードとアップロードは制限あり |
| 使える時間 | 多くの機種は、離陸の5分後から着陸の5分前まで |
| 使えない便 | プロペラ機(機種コードDH4)はインターネットなし |
国際線は料金も内容も別です。ほかの航空会社も含めて、搭乗する便の案内で確かめてください。そもそも機内Wi-Fiを積めるのは、電波への耐性がいちばん高い区分の機体だけです(国土交通省の資料)。
機内Wi-Fiは、カフェの無料Wi-Fiと同じく、だれでも入れる無線です。ANAも通信傍受や不正アクセスの可能性を挙げています。パスワードやカード番号を入れる前に見る点は、無料Wi-Fiはなぜ危ないと言われる?にまとめています。
無料で、動画も見られる。それなのに、再生の輪が回り続けることがあります。
つながっているのに遅いとき、どこが詰まっている?
Wi-Fiにつながっているなら、機内の段は動いています。それでもページが開かないなら、まず疑うのは機外の段です。
| 見え方 | まず疑う段 |
|---|---|
| Wi-Fiに接続すらできない | 機内の段 |
| 接続はできるが、ページが開かない | 機外の段(案内のページで「インターネット」を選んだかも見る) |
| 文字は届くが、動画が止まる | 機外の段が細い |
| 一瞬とぎれて、また戻る | 通信相手の切り替え |
細くなる理由は3つです。
- 分け合っている — 外へ出る道を、乗客みんなで使います。ANAも「アクセスが集中するとつながりにくい」と案内しています
- 遠い — 衛星まで行って戻ります。高度約3万6千キロの静止軌道の衛星なら、返事が戻るまでに、電波が進むだけで約0.5秒(計算のしかた)。東京とアメリカを結んだ実験の約0.11秒の4倍あまりです
- 場所と天気 — 衛星の方式は、飛行ルートや気象で不安定になったり、中断したりします(ANA)
機内の回線は、速度も容量も地上ほどにはなりません(ANA)。乗客にできるのは、裏で動くアプリやソフトの自動アップデートを切っておくこと。見たい動画は、搭乗前に端末へ保存しておけば確実です。
機体を出たデータが地上の道を乗り継ぐ場面は、物語の第37話でたどれます。
遅さを一文にするワーク
次に遅いと感じたら、頭の中で一文にします。
つながっているのは__の段まで。詰まっているのは__の段。理由は__。
- つながっているのは機内の段まで。詰まっているのは機外の段。理由は乗客で分け合っていること
- 理由だけ入れ替えると、飛んでいる場所か、天気
ミニクイズで上空の通信を確かめる
Q1. 飛行機で機内モードにするのはなぜですか?
A. スマホが地上の基地局へ出す電波が、運航の安全に支障を及ぼすおそれがあるからです。ドアが閉まってから着陸後の滑走が終わるまで、航空法にもとづく告示で止められています。
Q2. 機内モードなのに、なぜWi-Fiは使えるのですか?
A. 止められているのは、機体の外の設備と無線通信をする状態だからです。機内Wi-Fiの相手は、機体の中のアクセスポイントです。
Q3. 接続はできるのにページが開かないとき、詰まっているのはどこですか?
A. まず疑うのは機外の段です。機内の段は動いていて、その先の道が混んでいるか、とぎれています。
次にドアが閉まったら
機内モードにするのは、外へ向かう電波を止めるため。そのあとWi-Fiを入れても、相手は機内の受付です。受付の先は、空の衛星か地上のアンテナ。ページが開かなければ、まず疑うのは機外の段。ここまで言えれば、あの案内の食い違いは、もう食い違いではありません。
イトの「Wi-Fiはいいの?」への答えは、「いい。行き先が機内だから」。画面のむこう側では、時速数百キロで動く受付が、相手を乗り換えながら荷物を届け続けています。
この記事について
LAB WHITEBOARD
飛行機のWi-Fiと機内モードを一文で説明してみよう
「飛行機で機内モードにする理由と、それでも機内Wi-Fiが使える理由を、機内の無線と機体の外への通信の2段に分けて説明できるようになる。」を、いまの自分の言葉で一文にしてみてください。途中の説明でも大丈夫です。








