テレビのアニメはどこから来る? / 第2話

第2話:ぜんぶデータって本当?

0と1しか通れない門が、あと三分で閉じる。イトの手には、仮面が外れる直前の一枚。絵のままでは通れないその札を、どうするのか。手紙も写真も歌も「データ」と呼ばれるわけを、門の前で見つけます。

データ0と1読み方の約束6分更新

門には、穴が二つしかなかった。

暗い穴と、光る穴。イトが両手で持っている青い札は、どちらにも入らない。札の中では、夕焼けを背に、仮面へ伸びた手が、仮面を半分だけ持ち上げている。あと一秒で顔が見えるはずだった、あの場面だ。

門の上で、数字が減っていく。あと三分。イトが再生を止めたから、この道はもう使われていない。使われない道の門は、じきに閉じるのだと、ピコは言った。リモコンは、ラボのテーブルの上だ。

イトは、札を持つ手に力をこめた。

「このままじゃ、最後の一枚を連れていけない」

札だけが、通れない

街のあちこちに、同じ形の門があった。だれかの手紙、旅行の写真、聞いたことのある歌。いろいろなものが光の道を流れてきては、門の手前で細かい光にほどけ、二つの穴へ吸いこまれていく。イトたちの前の門だけが、しんとしていた。その向こうへ伸びているのは、アニメの続きが来るはずだった道だ。

門のはしには、人が通る細い通り道がある。イトは札を持ったまま、そこを抜けようとした。肩は通る。腕にかけた空の枠も通る。なのに札だけが見えない壁に当たって、手ごと押しもどされた。

ピコ

手紙も写真も歌も、この街ではぜんぶデータって呼ぶんだ。門を通るときは、どれも暗い光と明るい光の列になる。暗いのが0、明るいのが1だよ

イト

なんで? ぜんぜんちがうものなのに

ユイ

ええと、0と1は数字で、コンピューターはそれを……それで……

イト

ユイも知らないんじゃん

ユイ

知らないんじゃなくて、確認してるの!

次は説明できるようになりたい。そう言ってラボを出てきたばかりなのに。ユイは開いたノートの上で、ペンを止めた。

ピコが、門の横へ飛んでいく。「聞くより、見たほうが早いよ」

数字は、二分三十秒になっていた。

同じ光が、三つのものになった

門の横に、窓のついた読取機が三台並んでいた。文字の機械、絵の機械、音の機械。

ピコは、となりの門へ吸いこまれかけた短い光の列を、一本つまみ上げた。明るい、暗い、暗い、明るい。イトには、ただの点滅にしか見えない。

一台めに入れると、窓に文字が一つ出た。「ぬ」。二台めでは、同じ列が青とオレンジの小さな点になった。三台めでは、ぽん、と短い音が鳴った。

イト

なんで? おんなじ光なのに

ピコ

光は、自分が何なのか知らないんだ。決めてるのは、読むほうだよ

イト

じゃあ、ほんとはどれなの?

ピコ

この列だけじゃ、だれにも分からない。読み方の約束とはぐれた、迷子だから

ユイが小さくうなずいた。「今、わかった顔したね」とピコが言う。「……したかも」とユイ。

マコトは、点滅する門をまぶしそうに見上げていた。

マコト

子どものころ、向かいの家の子と、部屋の電気で合図を決めたことがあるよ。二回つけたら『あそぼう』、三回なら『今日はむり』

イト

決めてない子が見たら?

マコト

ただ、ちかちかしているだけだろうね

イトは札を胸に引きよせた。この一枚も、ほどけば光の列になる。約束とはぐれたら、あの場面は、ぽん、と鳴っておしまいだ。

数字は、二分を切っていた。

イトが選べる三つの道

絵の機械には、札がちょうど入る幅の差しこみ口があった。

ピコ

ここに入れれば、札は光の列になって門を通れる。先頭には『絵として読んで』って約束がつくよ

イト

向こうで、また札に戻る?

ピコ

札には戻らない。向こうの機械が約束どおりに読めば、絵は見える。でも、一粒でも欠けたら、そこに穴があく

イト

約束とはぐれたら?

ピコ

ぽん

マコトが、来た道をふり返った。ずっと後ろに、入口に置いてきた青いケーブルが小さく見える。

「戻ってもいいんだよ。印は置いてきたからね。それか、札を預かって、先にラボで待っていようか」

札と、道と、四人。三つとも持っては行けない。戻れば、道がなくなる。預ければ、マコトがいなくなる。ほどけば、札がなくなる。

ポケットでスマホが震えた。

イトは、はじめて返事を打った。「いい。自分で見る」

あと一分。イトは札から顔を上げた。

イト

ピコ。この札って、テレビに来るまえは、どんなかっこうだったの?

ピコ

……あの光だよ。明るいのと暗いのの、長い列

イト

じゃあ、続きも?

ピコ

続きも

探している続きは、絵のかっこうをしていない。この一枚のすぐ後ろにつながる、光の列だ。この一枚を連れていかなければ、どの列が続きなのか、きっと見分けられない。

残り二十秒

イトは、札の中の夕焼けをもう一度だけ見た。

「ほどいて、連れていく。マコトも来て。ユイの説明だけじゃ、分かんないし」

「ちょっと!」とユイが言った。マコトは何か言いかけて、だまってうなずいた。

イトは絵の機械の前に立ち、札を両手で差しこんだ。指が、なかなか離れない。青い札が、端から細かい光にほどけていった。

夕焼けが消えた。主人公の輪郭が消えた。仮面へ伸びる手も消えた。

残ったのは、明るい光と暗い光の、長い列だけだった。どこを見ても、イトにはもう、あの場面だと分からない。どこかが欠けても、きっと気づけない。

イトが夕焼け色の最後の映像札を読取機へ入れ、札が0と1を表す暗青と水色の光列へほどけて細い門を通っている
最後の一枚を読取機へ入れると、明るい光と暗い光の列になって門を抜けていく。

見えるのに、持てない

列は、二つの穴を一粒ずつ抜けていった。四人も通り道を走りぬける。背中で、門が通り道ごと閉じた。

向こう側にも、同じ絵の機械が立っていた。列の先頭が吸いこまれる。台の上は、暗いままだ。一秒。二秒。イトは息を止めた。

左上に、小さな点が一つともった。その横に、もう一つ。点は一段ずつ並んでいく。

夕焼けが戻った。主人公の輪郭が戻った。仮面へ伸びる手も戻った。

穴は、どこにもあいていない。イトは手を伸ばした。指は、点のあいだを通りぬけた。絵はそこに見えている。仮面は、半分上がったところで止まったままだ。けれど、持てる札は、もうどこにもない。

ユイ

イト。さっきの、もう一回説明させて。光が絵を覚えてたわけじゃないの。こっちでほどいたのと同じ約束で、向こうが読んだから、絵になったんだと思う

イト

じゃあ、手紙も歌も、約束がちがうだけ?

ユイ

そう。……たぶん

ピコ

ユイ。今のは、わかった顔していいよ

ユイのノートには、一行だけ書いてあった。0と1の列と、読み方の約束。二つそろって、データ。

台の上の絵が、ゆっくり薄くなった。光の列が、道の先へ流れだしたからだ。イトは腕にかけていた空の枠を持ち直して、あとを追った。

列の先で、次の門が待っていた。その横から、かたん、かたん、と空の小箱が転がり出てくる。どれも、イトの手のひらにのる大きさだ。列は、その何十倍も長い。

イト

入らないよ、こんなの

ピコ

だから、切って入れるんだ

イト

切るの? あの場面を?

光の列は、自分が何なのかも知らずに、門の前でちかちかと光っていた。

次回:小さな荷物はどうやって届く?

小箱は、ぜんぶで十二個。切り分けた一枚は、箱ごとにちがう道を走ることもあるという。

ぜんぶが、元の順番で届くのだろうか。

第3話「小さな荷物はどうやって届く?」へ →


文字、絵、音には、それぞれ別の読み方の約束があります。どんな約束で0と1になるのかは、データとはの表で見比べられます。

この物語を、解説で深める

第2話で生まれた疑問を、解説記事で少し深く見ていきます。物語で感じた不思議さを残したまま、言葉と仕組みを順番に整理しましょう。

データとは?スマホの写真からわかる、文字や音の記録を読む